G7初参加の李大統領、トランプ氏と関係構築焦点　中露寄りイメージ脱却図る…会議では「目立たない戦略」か

韓国の李在明（イ・ジェミョン）新大統領が、16日からカナダで討議が始まる先進7カ国首脳会議（G7サミット）に参加し、多国間外交デビューする。李氏は就任直後から米韓同盟の重要性を強調しているが、「中露寄り」とのイメージが強い。関税交渉や在韓米軍再編の本格的な議論を控え、トランプ米大統領と関係を構築できるかが最大の焦点だ。

「共産主義者が韓国支配」と批判
李氏は大統領就任2日後の6日にトランプ氏、9日に石破茂首相、10日に中国の習近平国家主席と相次いで電話会談した。主要国との会談は米日中の順で、最後になった習氏とは一番長く30分通話した。

聯合ニュースは、「韓米日協力の重み」を示しながら、「最大貿易相手国の中国をおろそかにしないというメッセージ」だと分析した。一方、京郷新聞は米韓首脳電話会談の後、米政府の公式発表やトランプ氏の交流サイト（SNS）投稿など特段の反応がなかったことに触れ、米側が李新政権を「様子見」していると報じた。

李氏を巡っては「反米親中」との評価が付きまとう。城南市長時代の2017年、在韓米軍に高高度防衛ミサイル（THAAD）を配備する計画について「米国に利益をもたらすだけ」と主張して撤回を要請。中台問題について「私たちとは何の関係もない」と述べ、反発を招いたこともある。

李氏の当選を受け、米ホワイトハウス当局者は3日、韓国大統領選が公正に行われたと前置きした上で、「米国は世界の民主主義国家における中国の干渉と影響力を懸念し、反対している」とコメント。韓国国内では、新政権の対中接近に対する警告との受け止めが広がった。

トランプ氏に近いとされる極右活動家のローラ・ルーマー氏は3日、X（旧ツイッター）で、李氏に対して「共産主義者が韓国を支配し、大統領選で勝利した」などと露骨に敵意を向けた。

会議では「目立たない戦略」か
李氏は今回の大統領選で「国益中心の実用外交」を掲げて米韓同盟の重要性を強調する一方で、尹錫悦（ユン・ソンニョル）前政権で悪化した中韓関係を安定化させたい意向を示していた。

李氏の選挙陣営で外交政策を統括した趙顯（チョ・ヒョン）元外務次官は産経新聞の取材に、「実用外交は虚勢をはることなく、不必要な敵対関係をつくらない」ことだと説明した。尹前政権は「グローバル中枢国家」を目指すとした外交方針の下で、中国や北朝鮮と敵対したとの見方を示し、「軍事大国の中国と核保有国の北朝鮮に囲まれた韓国の脆弱性を認識すべきだ」と穏健な外交路線に転換する必要性を訴えた。

ただ、トランプ米政権は、同盟・友好国が中国と経済協力しつつ、安全保障で米国に頼ることに否定的とされる。実用外交はいわば全方位外交といえ、李氏の姿勢は、今後の関税交渉や在韓米軍再編などの議論に影響するリスクもある。

韓国メディアでは、G7に参加する韓国新政権の課題として、「米韓同盟を基盤とすることを再確認し、韓国にとって米国との関係と、中露との関係は〝等距離〟ではないと明確にすべきだ」（韓米同盟の研究者）と指摘されている。

G7は、ウクライナ戦争を続けるロシアを非難する共同声明を発出してきた。ロシアが北朝鮮と軍事協力を加速していることは韓国の安全保障にとって深刻な事態であり、新政権がウクライナ戦争を巡りどのような立場を表明するかも注目される。

ただ、韓国はG7加盟国ではなくオブザーバーとしての参加。「（控えめで目立たない）ロー・キー戦略をとるほかない」（韓国紙、毎日経済）との観測も出ている。（石川有紀）

産経新聞　2025/6/16 09:00
https://www.sankei.com/article/20250616-U64PKXI3PJNOZIEFZEIQAVJUAQ/