NewsPicksの編集長を退任して約1年半前にフリーランスのライターとなり、勝手気ままに旅をしながら文章を書いたりPodcastを配信したりするようになった。経済メディアからキャリアをスタートしてきた自分が、まさか旅を仕事の一部にするとは思っていなかった。その元を辿ると、20歳の時、初めての海外旅で経験したある親切に行き着く。
20歳、初めての海外旅行。行き先はインドだった。ヒンドゥー教の聖地・バラナシで、私は見事に体調を崩した。前日、ガンジス川に潜ったのが悪かったのだろうか、とにかく腹を下し、高熱が出て、安宿のベッドで動けなくなった。
インドの安宿で受け取った「薬」がよく効いた理由。出会ったばかりの韓国青年はなぜ大事な薬をくれたのか? 分断の時代に思い出す「旅の1コマ」NewsPicksの編集長を退任して約1年半前にフリーランスのライターとなり、勝手気ままに旅をしながら文章を書いたりPodcastを配信したりするようになった。経済メディアからキャリアをスタートしてきた自分が、まさ…toyokeizai.net
「お母さんが持たせてくれたんだ。体を壊したら、飲みなさいって」
私は戸惑った。これはきっと彼にとって”お守り”のはずだ。旅の途中で体調を崩したとき、母親の愛情が詰まったこの薬は、どれほど心強いものだろう。それを、会ったばかりの日本人に、彼は惜しみなく差し出してくれる。その行為にありがたさと申し訳なさが入り混じって受け取るのをためらった。
「でも、これ…」と言いかけた私に、彼は軽く首を振りながら言った。
「僕は必要ない。今、必要なのは君だから。もし僕が困ったら、その時は誰かが助けてくれるさ」
頭を下げて、薬を受け取った。薬はよく効いた。だが、それ以上に心に沁みたのは、彼のその行為そのものだった。異国の地で、見ず知らずの人間に、自分の大切なものを惜しみなく差し出す。その温かさに救われた。
社会人になってから、何度も韓国を訪れるようになった。
仕事でもプライベートでも、気がつけば20回以上訪れている。知人が増え、彼ら彼女らと深く話をするようになって、ようやく気づいた。あの青年の行為には、韓国特有の文化が宿っていたのかもしれないと。
韓国には「ウリ」という概念がある。日本語では「私たち」と訳されるが、その感覚はややニュアンスが異なる。ウリは、国民、家族、友人、同僚、そして時には出会ったばかりの他人でさえも包み込む共同体意識だ。
ウリの面白さは、家族や友人だけではなく、所属する組織やコミュニティ、数人の友達などであっても使われること。帰属意識と仲間意識の強さが根本にあり、個人を起点とせず、「私たち」から始まる言語構造が、この意識を物語っている。
ある意味で、個人と集団の境界が曖昧であり、情緒的な一体感でもある。儒教文化に根ざした集団主義と、朝鮮半島の歴史的な外圧に対抗するために育まれた連帯意識の産物だと言われる。
日本の「和」が調和や協調を重視するのに対し、韓国の「ウリ」は、より感情的で、内と外の境界線を引く性質が強い。一度、ウリに入れば、相手の困りごとは自分の困りごとにもなる。だから、惜しみなく助けるのが当然のことになる。
困ってる同胞をカモにするのが韓国人だぞ
このウリ意識は、その内側に入ればものすごく心強い。ただ、裏を返せばウリの内側にいる者には限りない優しさを注ぐが、外側の者には冷たく接することにもつながる。韓国社会の強い結束力と同時に、排他性も、このウリ意識から生まれているように思う。
今、世界では「境界線」が引き直されている。
世界全体を「ウリ」とするのがグローバリズムの理想だったが、近年、その流れは大きく揺らぎ、日本を含む各国でナショナリズムが台頭してきた。世界は再び、国家単位で境界線を引き直そうとしている。
だが、バラナシの安宿では、国境も言語も関係なかった。そこには、別の「ウリ」があった。旅人という「ウリ」だ。
世界中から集まった若者たちは、それぞれの国では見知らぬ他人だった。しかし、同じ安宿に泊まり、同じように現地の文化に戸惑い、感動し、同じように次の目的地を探していた。その共通体験が、新しい境界線をつくった。国籍ではなく、「旅をしている」という状態が、ウリを形成した。
韓国人の青年が私に薬を渡したとき、彼は困っている私を「自分と同じような旅人」として見ていたのだと思う。そして「もし僕が困ったら、その時は誰かが助けてくれるさ」という言葉には、国境を越えた助け合いの連鎖への信頼があった。
ウリという感覚は、おそらく国家か世界全体(グローバル)かという二者択一ではない。旅人、生活者、親といった属性はもちろん、同じ夢を追う者、同じ痛みを知る者など、何かしらの共通点や価値観をベースに連帯できる可能性を示している。
国家の境界線が強固になればなるほど、私たちは別の「ウリ」を見つけ出す必要がある。そのヒントは、もしかしたら、1泊500円の安宿の懇談スペースにあったのかもしれない。
境界線は、地図の上にあるのではなく、私たちの心の中にある。
あたし、ウリはやんないから
法で禁止されてるけど、警察も全然取り締まってないみたい
もう病気だろそれw
誰かに効く薬をもらわないと
単なる見間違いに過剰反応し過ぎだろう
産業
そもそもガンジス川に潜るってイカれてるだろ
この韓国人青年も韓国では変人なんだよ。
だから善良なんだ。
世界の広さを知ったあとは大概手の届く範囲で幸せならいい、って世捨て人になる
それは海外に行かなくても世界一周しなくても普通に暮らしてれば辿り着くのに





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