【有本香】＜五輪は国際政治映す「鏡」平和の祭典なんて絵空事＞北京五輪ボイコットを嗜める人々へ　看過できない認識違い

米政府の北京五輪ボイコット検討の報に、こんなツイートをした人がいたのだ。

　「正直、愚かな動きだとしか思えない。自分たちの政権だけで、冷戦中も列強の対立の時代も、平和の祭典として連綿とつづいてきたオリンピックの歴史を覆そうとするとはね。単に傲慢なのか、頭に蝶々が飛んでるのか」

　ツイート主は売れっ子国際政治学者の三浦瑠麗さんだ。私は次のように返信した。

　「モスクワ五輪の頃、三浦さんは生まれていなかったのかもしれないが、現ＪＯＣ会長の山下泰裕さんの涙の抗議をリアルタイムに見た者として、この認識違いは看過できない。１９４０年の東京五輪返上もご存知ないのだろう。『冷戦中も列強対立の時代も、平和の祭典として連綿と続いてきた歴史』は完全な誤解」

　三浦さんはその後のツイートで、五輪ボイコットを言うのはナイーブな素人考えだと言っているが、世界の歴史は、日本のお年寄りや三浦さんのような「玄人考え」をしばしば裏切ってきたことも確かだ。

　五輪ボイコットと言えば、１９８０年のモスクワ五輪、その４年後のロサンゼルス五輪を思い出す。当時筆者は大学生で、同世代の五輪選手たちがモスクワ五輪ボイコットの決定に涙する姿を見て胸を痛めたものだ。

　若い読者の皆さんのために書いておくと、当時は米ソ冷戦真っただ中の時代だ。１９７９年、ソ連がアフガニスタンに侵攻したことへの抗議を理由に、米国は西側諸国とともにモスクワ五輪ボイコットを呼び掛け、日本もこれに乗った。４年後の８４年、今度はソ連が意趣返しとばかりに、東欧の国々とともに米ロサンゼルス五輪をボイコットした。

　続く８８年のソウル五輪も波乱含みだった。ソウルでの開催が決まるとすぐに北朝鮮はラングーン事件を起こし、韓国側が南北共同開催を模索するなか、北朝鮮はさらに開催前年の８７年、大韓航空機爆破事件を起こす。「五輪は平和の祭典」というのは絵空事で、五輪はまさに時の国際政治を映す鏡のようなものだった。

　もっと遡（さかのぼ）れば、戦前の１９４０年、日本は東洋初の東京五輪を開催予定だったが、日中戦争の激化で返上を余儀なくさせられる。その後の敗戦で３００万余の国民を失いつつも、壊滅寸前となった国土を奇跡的に復興させて、６４年、東京五輪を見事に開催した。しかし、この時も中国が、開催期間中に核実験を行う暴挙で冷水を浴びせた。

　その中国が来年、北京で冬の五輪を開催する。２００８年にはチベットでの大弾圧に世界から非難の声が集まったのを振り切って、夏の五輪を開催したが、今回は、さらに増長。ウイグル人を１００万人単位で「虐殺」し、日本の沖縄県・尖閣諸島を脅かしながら２度目の北京五輪を開こうというのだ。

　五輪が政治にまみれ、選手が犠牲になる姿は見たくないが、それでも私はジェノサイドの地での五輪に賛成できない。

　既に本コラムで書いたとおり、中国以外の代替地開催の可能性を探ってはどうか。その最有力候補として、日本の札幌と長野を、と再び提案しておく。

夕刊フジ　4/10(土) 16:56
https://news.yahoo.co.jp/articles/8c0a5278f893bdb4098162972c241cf3cba8fd98